ウソつきより愛をこめて
「あーかったるぅ。橘マネージャーまだかなぁ」
値札に値下げのタグをつけながら、ゆりちゃんが何度も同じことをぼやいている。
…本当は橘マネージャーが来るかもしれないなんてデタラメだ。
ゆりちゃんになんとかやる気を出させるために、そう言っただけ。
もうそろそろ、そんな嘘も限界かもしれない。
「…あのー結城店長ぉ」
「なに?」
「ゆり、この間偶然見ちゃったんですけどぉ…」
言いにくそうにしているけど、彼女の態度はどこか威圧的だ。
さしずめ、私と橘マネージャーのことに関する質問に違いない。
「橘マネージャーの車で、一緒に帰ってませんでした?」
ぎくりとした私を、彼女は見逃さなかった。
大きな瞳が不機嫌そうに細められるのを見て、私はもう寿命が縮まりそうなほどの緊張に耐えている。
「あ、あの…」
「なんかずるくないですかぁ。シフトも公休日も、結構かぶってるし。もしかして密かに狙ってたりしますぅ?」
「私は、別に」
「ゆりなんていくら誘っても、ご飯にさえ連れってってもらえないのに…」
彼女に対して後ろめたい気持ちになんてなるはずないのに、私はなかなか視線を上げられない。
今この場から逃げられるのなら、今すぐにでも逃げ出したかった。
「子供使うとか、ほんと最低ですよぉ?」