ウソつきより愛をこめて
「は…、店長…自分が何言ってんのか、ちゃんとわかってますぅ?」
「うん。てかこの際だから、はっきり言わせてもらっていいかな」
レイアウトを変更していた手を止めて、私はゆりちゃんを真っ直ぐに見据える。
顔が笑っていないのは、私も同じだった。
「ゆりちゃんて、この仕事向いてないと思う」
「は、はぁっ?」
「この仕事っていうか…どの職業についても、敬語できない、挨拶できない、その上目上の人に対する礼儀が全くなってないなんて、お話にならないよ?アパレル社員っていったって、バイトみたいに見た目がよければ採用されるわけじゃないからね?あ、さっきの接客も最低。あのお客様が本部にクレーム入れたら、間違いなく始末書もんだよ」
「な、なんなんですかぁ!急に」
「急にじゃないんだよ。ずっっと思ってた。遊び感覚でバイトやるのはいいけどさぁ、いざ就職ってなったらきっと大変だよ。だから、こうして悪いとこ全部言ってあげたの。むしろ感謝してほしいくらい」
「そ、そんなことくらい、あんたに言われなくたって…!」
「今出来ないくせに、いざとなった時なんて出来るわけないじゃん。付け焼刃なんて、すぐにボロが出るよ」
「マジあったまきた!じゃあ言われた通り、今日で辞めてあげますね!」
激昂したゆりちゃんが持っていたタグを私に向かって投げつけて、それがフロアの辺り一面に散らばる。
高いヒールの音はあっという間に、聞こえないところまで遠ざかってしまった。
「…はぁ…」
その場にすとんとしゃがみこんだ私は、深いため息をつきながらそこら中に散乱した紙の破片に手を伸ばす。
「よくあれだけ言ったな」
聞こえてきた馴染みのあるその声に、私は心のどこかで安堵していた。