ウソつきより愛をこめて
寧々の泣き声が聞こえてきた瞬間、私ははっと我に返っていた。
「ど、どいて…!」
橘マネージャーの身体をすごい勢いで押し返し、露わになった身なりを整えてソファーの上から飛び降りる。
そのまま彼を放置して寝室へ向かうと、寧々がベッドの上で小さく震えながら泣いていた。
「…ママぁ…」
「ごめんね、寂しかったよね。大丈夫…ちゃんとここに居るよ」
寧々をなだめながら優しく抱きしめて、サラサラの髪の毛に何度もキスを落とす。
…今のはヤバかった。
やばいどころじゃなく、完全に流されてた。
心臓の音がやけに煩く聞こえて、身体のあちこちが痺れたように麻痺している。
寧々が泣き出さなかったら、私は一体どうなっていたことだろう。
「寧々、…もっとこっちおいで」
毛布の中に潜り込んで、寧々と隙間のないくらいに密着する。
すぐに聞こえてきた可愛らしい寝息の音を聞きながら、私は必死で高ぶった心を落ち着けていた。
リビングから音は聞こえない。
帰ったのか、まだいるのか、そんなの確かめる勇気もない。
もうどこにも行くな、と縋るように言った橘マネージャーの声が、私の頭の中から一晩中消えることはなかった。