bitter・princess ー短編ー
あたしは、奈海に駆け寄った。

「奈海!奈海、大丈夫!?」

「……ね…速音…」

蚊の鳴くような声で、あたしの名を連呼する奈海。


「酷い!!何でこんなことするの!?こーゆうことは、好きな人とだけするものじゃないの!?」

あたしは、ユキを睨んだ。


しかし、ユキは鼻で笑ってあたしたちを見下ろした。

「何言ってんの?セックスなんてさ、愛し合ってなくてもできるよ」

ユキが言い終わると同時に
奈海は部屋を飛び出した。


その一週間後、奈海はあたしたちの前から姿を消した。


あたしは、恋をすることに失望した。


“愛なんてなくてもセックスはできる”

その後のあたしの生活は、その言葉通りだった。


あたしにとってセックスは
愛し合ってするものではなく、自分の存在を確かめる行為。


求められた数が、あたしの存在価値。


感情なんてない。

好きと言われれば、『はい、どうぞ』って、体を差しだす。

それがあたしのやりかただった。
< 15 / 29 >

この作品をシェア

pagetop