bitter・princess ー短編ー
あたしは、頭を下げるお兄ちゃんの頭を

軽くコツンと小突いた。

「いいよ。別に。気にしてない。春馬もさ、きっともう突っ掛かる気にもならないと思う。あたしにこんな暗い過去があったなんて知ったんだから」


「…っ…ちが―…」

お兄ちゃんは、何かを言いかけてやめた。

少し気にはなったけど、今は誰とも話す気にはなれなかったから
聞かずにいた。


お兄ちゃんが部屋を出ていった後

あたしは、ベッドに横たわり、目を閉じた。



――翌日。

眠い目を擦りながら、髪にアイロンを当て、制服の袖に腕を通した。


「ってきまーす」

ガチャ、と玄関の戸を開けると

「おっす」

学ラン姿の春馬が立っていた。


「俺も、今から行くんだ。偶然だな。一緒に行こうぜ」

ニッ、と笑ってあたしの横で歩きだす春馬。

あたしは、何事もなかったような

と言うより、むしろいつもよりよく喋る春馬の態度に、戸惑った。


「は…春馬?」

まさか、悪いものでも食べた?

それとも、何か企んでる?

あたしは、恐る恐る春馬を見た。


「速音、今日はストレートなんだ。そのほうがいいよ。速音らしくて」
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