ある物語
「リューゼ・ヴィオレッド館長。」
少年の背後から、男が現れた。
「その、態とらしい言い方……クシュトーク、さん。」
渋るように敬意を表す。
「ごきげんよう。」
クシュトークはにっこりと恭しく挨拶をした。
そして、本に目をやる。
「それは、私の父が嘗て著した本か。……今はもう、絶版になっていると聞いた。」
「そうなのですか?」
エリノアは目を丸くした。
「“ハルデン・クシュトーク”とある。これが父の名だ。」
クシュトークは眼鏡を上げて、説明した。
「嫌味なクシュトークさんとは大違いな、実直な方だよ。」
ヴィオレッドは言う。
「私は嫌味ではない。ただ、君を見ていると虐めたくなるだけさ。」
「この、変態。ショタ虐めて楽しいかい?」
「1140歳に言われたくないね。黒い天使さん。」
「……」
クシュトークが鼻で笑うと、ヴィオレッドは口を尖らせた。
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