ひとりぼっちの
きみは
私は家に帰るとテレビも付けず、ソファーに座った。タンスの上の鳥籠の中を横目に見て、落胆する。真っ白い奴はそこに居座っている。時計の音はやけに煩い。
恵理香といい、西山といい、息子といい一体何なのだ。比喩ではなく、私は頭を抱える。
万が一、この卵が息子のメッセージだったとして彼は何を伝えたいのだろう。否、私が可笑しくなった可能性だって挙げられる。だけれど、私自身の螺旋が外れていたとしても、何故、卵である必要があったのだろう。
卵を卵として見るな、ということだとしたら。息子は私に何を求めているのか。私は私に何を求めているのか。
窓の外の真っ暗闇に目を向ける。窓を割って雪崩れ込んできそうなほどに、重たい暗闇。
私は立ち上がるとキッチンへ向かった。あるものを手に取ると、その足で鳥籠まで歩いていく。フローリングの床がひんやりと冷たい。
鳥籠の前で立ち止まった私は中の卵を見下ろした。美しい歌声も、羽ばたくための翼も、広大な宇宙も、果てのない青空も、その殻の中にあるのかもしれない。あるのかもしれないが、私にとってはただの卵である。そうして、卵で充分だった。
オムレツを作ろうとして、麗しい美女が出て来たら晩御飯が食べられなくなるからだ。それは非常に困る。卵は卵、そうでしょう。──いや、絶対に、そうなのよ。
私は鳥籠の蓋を開ける。卵は羽ばたいて、何処かへ飛んでいったりはしなかった。こちらをじっと見上げてくる。私は手にしていたものを卵の横に置いた。そうして、蓋を閉める。鳥籠の中に二つ並んだ卵を見て、満足をする。
調度、玄関から音がした。私はそちらへ顔を向ける。息子の姿が見えた。私はいつも通り
「おかえり」と言った。