羽柴の彼女





遠ざかっていく二人の背中。

そんなにくっつくな、萌に触るな、お前みたいな奴が気安く萌って呼ぶな。

思うだけで、当たり前のように届くことはなく、二人の姿は見えなくなった。

どうせ萌を待たせている間、別の彼女といちゃついてたんだろう。
考えただけでも頭の血管が切れてしまいそうだ。

そんな汚い手で、俺でさえも触れたことのない萌の手を、平然と握る。

女を、何だと思っている。
萌を、何だと思っている。

力なく、その場に崩れ落ちた。
今の俺は、先刻ゴミ箱を漁っていたビン底の眼鏡野郎と遜色ない。

哀れで、惨めで、カッコ悪い。

みんな大好きな「王子様」とは正反対。
まるで、醜いボロ雑巾のようだ。





< 10 / 35 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop