羽柴の彼女
「荻野目くん」
しゃがみこんで項垂れる俺の頭上から、声が降ってきた。
最悪である。
どうせ声の主はあの朝倉であろう。
こんなにも情けない姿を見られた。
もう、偉そうなことも、言えないではないか。
俺は俯いたまま、顔を上げることができなかった。
「お腹空かない?」
朝倉は続ける。
なんなんだこいつは、気持ちが悪い。
答えずにいると、ぴらり、という小さな音が耳に入った。
顔を上げて確認すると、それはシワの入った千円札であることが分かった。
「これで、ラーメンでも食べにいかないか?・・・ああ、あまり深いことは考えることないよ。これは羽柴の金じゃない。僕が稼いだんだから、僕の金だ。」
だから何だというのだ。
だとしたら、余計に惨めではないか。
でも、今はそんな朝倉の言葉だけが、俺にとって、希望のようにも思えた。