羽柴の彼女
とにかく俺は、昨日あの写真を見たときから、否、それよりもずっと前から、酷く憤っていた。
羽柴という男のことや、この、クソみたいな世の中に。
一刻も早く、目を覚まさせねばなるまい。
あいつを・・・萌を、こっちの正しい世界に戻してやるのだ。
ホームルームの終了を知らせるチャイムが高らかに鳴る。
時は来た。
席を立ち、いつもより綺麗に礼をして、誰より早く教室を飛び出す。
校門で、待ち伏せする作戦だ。
脳内で何度もシュミレーションしたから、出会い頭、声をかけるタイミングや、台詞などはもう、完璧である。
あとは実践するのみ。
今まで生きてきた16年という時の中で、こんなに緊張しているのは初めてかもしれない。
それも、相手はあの萌だというのだから、屈辱的だ。どんなバツゲームだとも思うが、あいつが悲しむことのほうが今の俺には、よっぽどバツである。
よりによって、萌があんな男に引っ掛かるようなやつであったというのは、にわかに信じがたいが。
逆に良かったのかもしれない。
相手が非の打ち所もない完璧なやつであれば、俺は今より余計にヒガミ丸出しのイタイやつになっていたに違いないからだ。