羽柴の彼女






否、これはヒガミなどではない。
この世の中に数多存在するリア充という輩が、ただただ滅亡してくれればいいのにと思うだけだ。
そうしたら、世界の人口は、およそ半分ほどにはなるだろうか。
苛立ちのない、より良い世界になりそうだ。

などとくだらない妄想を繰り広げつつ、門に背中をつけ、体重を預けながらあいつを待つ。
すり抜けていく帰宅部連中などにはまるでスポットは当たらない。

昇降口から出て来る幸の薄そうな顔をした女に真っ直ぐ照準が合って、鼓動は更にその動きを早めた。
深く息を吸い込む。
俺は、偶然を装うなどという馬鹿げた手段は使わない。

昨日のことは水に流すように、さらっと声をかける。
そのまま、自然な会話に持ち込む。
このほうが、ずっと良い。

今度こそ、失敗しない自信があった。


ターゲットは徐々に大きく、はっきりとしてくる。
まだ、俺の存在には気付いていないようだ。

少々、心臓の音がうるさいような気もするが、全てこのシナリオ上の演出と思えば充分だろう。
気付かれないよう門の影に隠れ、あいつが目の前を横切るのを静かに待つ。


・・・・・・・・・



・・・・・・・・・



・・・・なんだこの時間は。
心臓に悪いにもほどがある。



と、よく知るシャンプーの香りが不意に漂った。
これは萌だと、すぐに分かる匂い。
それはそれで変態じみている気もするが、今はそれでも構わないと思えた。

未だ俺には気付かず、目の前を素通りしようとする萌と並ぶように、今、一歩を踏み出す。




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