羽柴の彼女
そして、視界の端に映った俺の存在にようやく気付いたのか、俺を見て、目を丸くする萌に、一言。
「待っていたよ、一緒に帰らないか?」
普段使わない顔の筋肉を使って、必死に、「微笑む」という表情を作る。
早くも顔が引き吊りそうだが、今だけ何とか耐えねばなるまい。
あと、このなんとも言いがたい屈辱にも。
「・・・・何のつもり?気色悪いんだけど。」
そんな俺に浴びせられた、更に気持ちを萎えさせる萌の冷たい言葉。
気色が悪いのは、俺も重々承知だが、しかし、やりすぎたか。
俺にしたら、あの性欲男も同じくらい気色悪いと思うのだが。
「お前はこういう男が好みなのだろう?」
俺なりの微笑み顔のまま何とか切り返すも、その胡散臭い笑顔やめて、とバッサリ一蹴された。
顔の筋肉がゆるゆると力を失っていく。
胡散臭い笑顔って、それを言うなら羽柴だってそうだろう。
それにしても、笑顔という認識はされていたのだな。
昔から仏頂面とは言われてきたが、もう少し頑張れば自然に笑えるようになるかもしれない。まるで、アンドロイドに人間的な心が芽生えてしまって、上手く感情を顔に出せないことに悩んでいるようだ。
少々、自虐的になってしまった。
これは良くない。
萌の歩幅に合わせるように、並んで歩く。
「ていうか、何でついてくるのよ。」
「俺も家の方向一緒なんだから、仕方ないだろう。」
あっさり、いつもの口調に逆戻りだ。
そう簡単にいかないだろうとは思っていたが、やはり、萌といるとどうにも立てていた計画が崩壊してしまう。
こいつ相手に色々考えるほうが無駄なのかもしれない。