羽柴の彼女
だとすれば、何を話そうか。
話すことは決まっているのだが、どう話を切り出すかが決まらない。
沈黙の中、ただ、ただ、萌の歩くスピードだけが上がっていく。
また、苛立ってしまう。
俺は本当に、萌に嫌われてる。
その理由が分からないし、俺を嫌いで何故あいつのことが好きなのかも分からない。
「・・・・何で」
「え?」
萌が、いつもと変わらない怪訝な眼差しで俺を見ていた。
つい、思っていたことが口から出ていたらしい。
言いかけた言葉を飲み込むように、何でもない、と口にしようとした時。
俺達が、いつもの歩道橋の前まで来ていたことに気付いた。
この歩道橋を渡ってしまえば、家はすぐそこだ。
結局俺は、ずるずると言いたいことを何も言えないままここまで来てしまった。
ここを渡り終えた時が、本当の本当に、最後だ。
だから俺は緊張というやつで震える手を固い拳に変え、小さく息を吸った。