羽柴の彼女





「荻野目くん、荻野目くん」



朝倉健児が教室に飛び込んでくるなり、俺の名を二度、繰り返した。
朝倉は、今時ビン底の丸眼鏡をかけているようなやつだが、こう見えて俺と同じ野球部に所属している。
そして、俺と同じ幽霊部員だ。
恥をしのぎ、勇気を出してした折角の丸刈り頭も意味はなく、今は一刻も早く髪が伸びるようにと心から祈っている。
部活に行かなくなった理由は、まぁ色々あるのだが、簡単に説明すると、面倒だった、という一言に集約されるだろうか。

とにもかくにも俺は今、一人、教室に残って放課後の何もない時間を埋めるようにポータブルゲーム機を弄っていた。



「何?」


「見て見て、これ!本日の成果だよ!」



そう言うと、朝倉は机の上に一枚ずつ千円札を並べ始めた。
机に並んだ調度10枚の千円札を前に、すごいでしょ、と矯正器具を付けた前歯を剥き出しにする。



「ああ、これはすごいな」



とは答えたものの、すごいを通り越して、少々引いていた。

朝倉は最近、羽柴直樹を盗撮し、その写真を女子に一枚500円というぼったくり価格で販売するという小遣い稼ぎをしている。
そんな趣味の悪いことをする朝倉も朝倉だが、それを購入する女子も女子だ。

それと同時に、羽柴の人気を再度思い知らされ、絶望的な気持ちになるのだった。





 
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