羽柴の彼女
「何で、あいつなんだ」
いつの間にか俺より二段上の段差に立っていた、萌の背中に投げ掛ける。
「あいつって?」
そうしらを切る萌に追い付くように階段を一段上ると、彼女は更にもう一段、俺から離れた。
振り向きもしないその背中にもう一度、羽柴だよ、と言葉をかける。
「また、お前には合わねーとか、言いたいわけ?」
「違う」
「じゃあ、何?」
「確かに、お前に羽柴は合わないけど・・それは、お前の方が不釣り合いなんじゃなくて、羽柴が最低だから、お前にはもっと、良いやつがいるだろうと思うんだよ、俺は」
一歩縮めては、また一歩離される。
追いかけ合いのようにして、俺が階段を登り終えたとき、少し先にいた萌が足を止め、ようやく振り向いた。
「羽柴くんの、どこが最低だっていうのよ」
それは、羽柴の本性を知らないから言えることではないか。
何故俺が、こうも責められねばならないのだ。
今まであいつがどんなに酷いことをしてきたか、全て話したら、どうせ嘘だと言って泣いて、俺のことなど大嫌いになるくせに。
いつだって正しいのは、羽柴の方なんだろう。
でも、俺は今日、全てを話す目的で、萌に声をかけたんだ。
嫌われる覚悟で、声を、かけたんだ。
「お前は、知らないかもしれないけどな、あいつは・・・・」
「・・・・・・」
「あいつは・・・」
「・・・・・・」
「お前の他に何人も、彼女がいるんだよ」