羽柴の彼女






なんということだ。
萌は、羽柴の悪行を知っていたのである。

ということは、全て知った上で黙認しているということか。
なんという恐ろしい話だ。

これではまるで宗教じゃないか。
羽柴という教祖が数多くの女たちを洗脳し、崇め慕わせる。

やはり、俺のような普通の人間が勝負を挑んだところで、敵うような相手ではないのか。
しかし、そうなると益々腹が立ってくる。
俺の大事な幼馴染みに、よくも変な洗脳をかけたな。
羽柴め。
俺は絶対に、お前をゆる


「馬鹿じゃないの?」

「は?」


目の前には、呆れ顔の萌。
思わず、馬鹿と言われた顔のまま、聞き返してしまった。
俺の限りなく現実に近い妄想を遮って馬鹿発言をするところは相変わらずだ。
間違っても、洗脳されているようには見えない。


「あんなの、本当に好きになるわけないじゃん」


そう、弱々しく口にした彼女の顔は、昨日より、ずっと、悲しそうだった。
この顔をさせたのは、誰だ・・・・?

初めて見た萌の表情に、動きが止まる。
萌はその間に、もう一度「馬鹿」と言って走り出した。
俺はずっとそのまま、歩道橋の真ん中で立ち尽くしたまま、いつもみたいには、何も言い返せなかった。





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