羽柴の彼女




ふと気付くと、萌が歩道橋を降りてすぐの道を歩いているのが目に入った。

あのまま帰すわけにはいけない。

俺の中のナニカが、最後の最後で俺を突き動かした。


歩道橋の柵に身を乗りだし、今まで出したこともないような声量で叫ぶ。



「萌っ!!」



恥という感情は、とうにどこかへ置いてきた。
とにかく今は、萌が足を止めるまで、何度も何度も声を張り上げる。
あまりに叫びすぎて呼吸困難になっても、むせても、何度でも。



「うるさいっ!そんなに何度も呼ばなくたって、聞こえてるっつーの!」



足を止めてこちらを見上げたかと思えば、彼女も俺に負けないくらい喧しく、叫び返した。
可愛いげの欠片もない。
それはもう、吹き出してしまうほどに。



「ちょっと!なに笑ってんのよ!」



この距離から俺のリアクションが見えるとは、すさまじい視力の持ち主だ。感心する。
込み上げてくる笑いをなんとか鎮めて、荒い呼吸をもう一度しっかり整える。

こんなことなら、変な意地張らずに、最初から言っていればよかったんだ。




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