羽柴の彼女
萌は以前から時々、羽柴の話をしていた。
その頃から、あいつのことは気に食わなかった。
羽柴の話が出れば話題を反らし、羽柴の方に視線が向けばこちらに注意が向くよう、仕向けてきた。
未だ、羽柴が複数の女子と付き合っているという事実を知らなかった頃だ。
だから、そんな小さな抵抗をすることしかできなかった。
それに、まさか萌のような平凡な女子に羽柴が目をつけることなどないと、思っていた。
しかし、その考えがそもそも甘かったのである。
「羽柴くんに告白されたの」
ある時突然、萌は思いもよらぬことを口にした。
それは、萌に初めての彼氏ができたということを表していた。
あいつの本性を知った時にはもう、手遅れだったのだ。
萌は羽柴という王子の皮を被った悪魔によって、支配された後だった。
俺は後悔した。
何故、いち早く自分の気持ちを伝えなかったのだろうと。
もう、どうにもならない後悔だった。
純粋な萌に近付いて傷付けようなんざ、俺が許さない。
その瞬間、俺は戦おうと決めたのだ。
相手はあの羽柴である。
戦う前から決着はついているようなものだ。
だが、たとえどんな相手だとしても、どんなに不毛な戦いであっても、俺は諦めぬと決めた。
羽柴は、王子などではない。
ただの、無類の女好きである。