羽柴の彼女
「荻野目くん、一枚いる?」
突如、朝倉が俺の目の前にぴらりと千円札を突き出した。
こいつにはプライドというものがないのか、羽柴のお陰で金を稼げているという屈辱など、さらさら感じていないような顔をしている。
こうはならない。
諦めて、なるものか。
朝倉の人差し指と親指の間に挟まれた千円札を引き抜き、くしゃくしゃに丸めて、ゴミ箱へ放る。
「ちょ、荻野目くん!何してるんだよぉ!」
慌ててゴミに群がるカラスのごとくゴミ箱を漁り始めた朝倉の背中は至極惨めだった。
「そんなんだからお前は、いつまでもそうなんだ」
「荻野目くんだって・・・屋島萌に告白することもできないくせに!」
朝倉の声が、しんとした教室に突き刺さった。
同時に、俺の心にも突き刺さった。
何も言い返せない。
朝倉はゴミ箱をひっくり返し、辺りをゴミまみれにして、たった一枚の千円札を探している。
こんな哀れな奴に言われたくない。
苛立ちで、肩が震える。
それでも何も言えないのは、あまりに正しいことを言われてしまったからである。
何故だか今、ものすごく惨めで、空っぽで、涙が出そうだ。