羽柴の彼女





誰もいない下駄箱は、風の通りが良く、余計に寒い。
いつの間に冬になったというのだ。
このちょっとした季節の変化にまで、ケチをつけたくなる。

苛立っていた。

常々、機嫌が悪いのかとよく確認されるが、今日は特に苛立っていた。
自分のあまりの無謀さと未熟さを、あの朝倉によって、同時に思い知らされることとなったのだ。
こんなにも、腹の立つ話はない。


未だ、足に馴染まぬスニーカーを履いて、昇降口に出る。
そこで、自分の吐く息が白いことに気付いた。
目を細めて、真っ黒な空に溶けていくそれを見上げる。

そしてようやく視線を戻した時、俺の隣にもう一人、生徒がいたことにも、案の定気付いてしまった。



「萌」


「あ、春樹」



萌は俺の声に、すぐ反応を示した。
白く染まった息で冷えきった指先を懸命に温めている。
それも、長い時間ここに留まっていたからか、この寒さで頬が赤く色付いている。



「誰か待ってるのか?」


「羽柴くん。一緒に帰る約束をしてるの。」



墓穴を掘った。
これは、少し考えれば分かったことだろう。
嗚呼、自分を殴りたい。

それにしても、彼女をこの寒い中長時間待たせておく羽柴の気が知れぬ。
それだけ粗末な扱いをしているということか。
腹が立ちすぎて、今はもう、一周して無の境地に突入している。

そういえば萌とこうして顔を合わせるのは、羽柴と付き合ったという地獄の告白を受けたあの時以来かもしれない。
正直、避けていたという部分もあるが、俺も男だ。
いつまでも羽柴の好きにさせておくわけにはいくまい。



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