ring ring ring
 おれのせい、と高林くんは言うけれど、彼のしたことはあくまでもきっかけであっただけで、別れることになった原因そのものではない。むしろ、あれがなかったらわたしは忠信さんの本当の姿を知ることがないままで、結婚した後に知るはめになるところだったのだから、感謝しなければならないくらいだった。
 「あのね、別れたのは自分でもびっくりだけど、でも本当に高林くんのせいなんかじゃないの。だから責任感じたりしなくていいんだよ」
 慰めてもらいたくて高林くんに電話をしたのに、わたしのほうが慰める側になってしまった。でも正直、いい歳した男性が、泣いてしまうほどわたしたちのことを考えてくれていたのだと思うと、少しうれしい気もする。
 「そんな気休めいいですよ。いっそ責めてくれたほうがラクだ」
 自虐的な高林くんは、目を赤くしながらも必死で涙がこぼれるのをこらえようとしていた。かわいそうなような、かわいいような、複雑な気持ち。でも、真実を知ればきっと自分を責める必要などないことをわかってくれると思う。
 「ほんと、違うの。だってね、岡田さん、実は……」
 わたしは身を乗り出して、高林くんの耳元へ顔を近づけた。そして、
 「マザコンだったの」
 と囁いた。
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