ring ring ring
 「今まで全然知らなかったんですか、マザコンって」
 「知らなかった。気配すらなかったもの」
 高林くんは、落ち着きを取り戻すや否や、忠信さんのことを根掘り葉掘り聞きたがった。気持ちはわかる。婚約者同士か上司部下かの違いはあれど、身近な人の思いもよらないギャップを知ったショックは大きいし、マザコンとは程遠そうなライフスタイルに思えた人の化けの皮がどんなものなのか、興味は尽きない。
 「でもどこかに片鱗はあったんじゃないですか。なんか、甘えてくるなーとか」
 「全っ然。むしろ亭主関白気取りだったし」
 「うーん、カモフラージュしてたのかなあ」
 「それはそうでしょ。高林くんだったら、さらけだせる?」
 「…………」
 高林くんは、顎に手を当てて考えた。そして力強く言った。
 「無理っすね」
 だろうと思った。
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