ring ring ring
 そもそもマザコンというのがどんな感覚なのかわからないと高林くんは言う。わたしも考えてみたけれど、うまく説明できるような言葉が見つからない。母と仲が良くても、母の料理じゃなきゃイヤなんて思わないし、わたしがスキなものを母がキライと言ったところでわたしの気持ちに変化は起こらないから、わたしは至ってノーマルだ。そしておそらく、高林くんも。
 じゃあ、マザコンって何だろう。
 好き、とは違う気がする。行き過ぎた愛とか、そんな感じでもない。何というか、
 「絶対的存在?」
 「おーなるほどー。すべて“ママ”が正しいってことですか」
 「さっきの彼の様子を見る限りでは、その表現がいちばんしっくりくる。わたしがダメなんじゃなくて、どんな女性でも、母親にはかなわないのかもね」
 忠信さんはわたしを愛してくれた。でも忠信さんのお母さんはわたしを拒んだ。だから忠信さんは、わたしを捨てることにした。
 わたしへの愛は、“ママ”のひと声で簡単に消え失せてしまうほど薄っぺらな愛だった。
< 109 / 161 >

この作品をシェア

pagetop