ring ring ring
 この場合、そのケースの中身はおおかた決まっている。普通なら、ここで箱を閉じ、やはりスタッフに渡すのが最善のはずだったが、わたしは不思議と、そうする気にならなかった。
 わたしの体は、全身が心臓になってしまったのかと思うほど大きく鼓動を打ち、それはきっと、密着する背中を通して忠信さんにも伝わってしまっているだろう。
 「だ……誰のかな……きっと探してるよね」
 新人役者もびっくりの棒読みで、しらじらしいにも程があり、でもこれでわたしの早とちりだったら最高に恥ずかしいと思いながら、わたしの声は緊張のあまり震えていた。
 忠信さんの長い指が、箱からケースを取り出し、そっと開く。
 そこにはやはり、どのイルミネーションよりも眩しい光を放つダイヤモンドが、静かに佇んでいた。
 忠信さんが、緊張が最高潮のわたしから体を離し、正面に立った。そして美しいプラチナの指輪が収められたケースをわたしに向けて、深呼吸をひとつ。
 「海野美波さん、ぼくと結婚してください」
 わたしは、突然の出来事に、返す言葉が見つからず、ただ忠信さんの目を見ていた。そして、照れくさそうで、それでいて凛とした今の忠信さんの顔を、生涯忘れないと誓った。
 震える指で指輪を抜き取り、内側を見ると、【T to M】という刻印があった。
 【忠信から美波へ】
 プロポーズの言葉も指輪の刻印も、とてもシンプルで、それが本当に忠信さんらしくて、うれしかった。わたしは溢れる涙もそのままに、何度も頷いた。
< 11 / 161 >

この作品をシェア

pagetop