ring ring ring
 「なんか……はあはあ……アレっすよ……はあ……電車遅れてて……」
 「だからってそんなに走って来なくてもいいのに。高林くんっていつも慌ててるイメージ」
 息を切らし、あっちーと額の汗をぬぐう高林くんは、当たり前だけれどスーツではなかった。薄い桜色のパーカーに、着古した感のあるジーンズとごついスニーカー。とても春らしい色合いで、爽やかなスタイルだった。何度も一緒に食事に行っているものの、いつも会社帰りばかりだったので、彼の私服姿を見るのは昨年の社員親睦会以来ということになる。あのときの宴会での高林くんたちの出し物がおもしろすぎたという思い出話を忠信さんとしたのは、プロポーズの夜だったっけ。
 「いつも慌ててるイメージって、超ダサくないですか」
 「ダサいかダサくないかって言われれば、ダサいね」
 まだ呼吸が荒い高林くんを尻目に歩き出すと、焦って追いかけて来た。
 「待ってくださいよー」
 ほらね、また慌てている。
 「だって早く行かないと混むから。高林くんは背が高いからいいかもしれないけど、わたしみたいなちっこいのは、人の後ろになると全然見えないんだもの」
 わたしは歩きながら、前もって買っておいた入館券を1枚、高林くんに渡した。
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