ring ring ring
 本当はひとりで来る予定だった美術館の企画展。印象派の絵画を一堂に集めた展示会ということでメディアでも紹介されていて、注目度が高かった。週末に行くという話を高林くんにしたら、自分も行きますと言うから、こうして待ち合わせたのだ。
 「美術館にはよく行くんですか」
 「そうでもないよ、年に1、2回かな。今回は好きな画家の絵が来日するっていうから、見てみたくて」
 「へえ、おれもめったに来ないから楽しみだな」
 「めったにってことは、来たことはあるんだ。意外だなあ」
 「ちょ……失礼ですよ、海野さん〜」
 美術館の入口は開館直後ということもあって人が多く、わたしたちは入館の列の最後尾に並び、順番に従い建物の中へと吸い込まれて行った。
 普段の常設展のみの美術館は、しんと静まり返っていて、気に入った絵の前に佇んでいるだけで心が浄化される。技法とか描かれた時代とか、難しいことは全然わからなくても、展示室のソファに座っているだけで、至福のときなのだ。でも今日のような企画展はまったく別物。有名画家の絵を見るために大勢の人が訪れ、思い思いに感想を口にする人もいれば、親に無理やり連れて来られた子供が絵画そっちのけでウロウロしているのに躓きそうになったりもする。静かに鑑賞するのがルールでありマナーであるけれど、そうもいかないのが現実だ。
 今回も例にもれず、話し声があちらこちらから聞こえ、大勢の大人たちの足元をすり抜けようとする子供に危ない思いをしながら、それでもわたしは大規模な展示会を満喫した。
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