ring ring ring
 「本村といえば海野さん、岡田さんが……その、マザコンだってこと、本村に言いましたよね」
 高林くんは、「マザコン」という部分を言いにくそうに小声で言った。
 「言った。だって急に破局になって、ふたりとも納得してないみたいだったから。でも絶対口外しない約束で……って、はるかちゃん、もう高林くんに話しちゃったの?」
 「いやいや、違うんですよ」
 高林くんは手でわたしを制して、続けた。
 「海野さんが岡田さんと別れてから、本村がおれに、やたらと岡田さんとの飲み会セッティングしてくれって言うんですよ。それがあんまりしつこいから、岡田さんはおまえの先輩の元カレなんだし、いろいろあるからやめとけって言ったら……マザコンのことだったら何も問題ないって」
 「問題ない?!」
 どの辺が問題ないのだろう。たしかに由紀とはるかちゃんに話したときは、みんな同じ職場で働いている者同士として、あまり詳しく話すと、今後の仕事に影響がないとも限らないから、「ちょっとマザコン気味で」くらいにしておいたけれど、だからといって問題ないことない。由紀なんて完全にドン引きしていたし、口外しないでとお願いしたら、「言われなくても誰にも言わない。とても軽々しく人に話せることではない」と言っていたくらいなのに。
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