ring ring ring
薬指の味
 「ちょっとー!キラキラじゃない!」
 「すごい!本物ですよね、これ」
 「おめでとうございます、海野さん」
 翌日出勤すると、目ざとい女子社員たちの目は、早速わたしの薬指に釘付けになった。
 「岡田さんなら、顔よし性格よし、将来性もあって、言うことなしだもんね」
 同期の由紀が指折り、忠信さんの良いところをあげていく。たしかに彼は、ルックスもそこそこで、メタボや薄毛には縁がなさそうなうえ、有名国立大学を卒業した出世街道まっしぐらであるにも関わらず、相手を問わず紳士的に接することができる、出来た人間だ。
 「ありがとう、みんな」
 照れくさくて手を隠そうとすると、
 「どうして隠しちゃうんですかー、もっと見せてくださいよ!」
 と後輩のはるかちゃんがせがむ。見世物になるのが恥ずかしいんだっつーの、と言いたいところだけれど、こんなところで変な意地を張るのも格好悪くて、わたしは、「えー照れるよ」なんて言いながら、またキラキラと光る指を出した。
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