ring ring ring
 「何かヘン」
 勘の鋭い由紀は、わたしではなくはるかちゃんのほうに異常があると感じ取ったらしく、
 「わたしに隠し事なんてできると思ってるのかー!吐け!」
 はるかちゃんの首を絞め始めた。
 「きゃーっ、やめてください!」
 由紀の手から逃れようと、はるかちゃんがわたしの後ろへ回り込む。まるで小学生の休み時間のようなノリで、何やってんだか、と思いつつも楽しんでいる自分がいた。
 「さては彼氏できたな?誰なの、高林くん?高田くん?」
 「違いますよ〜!」
 「じゃあ誰?まさか社外とか。コンパで見つけた?」
 「そうじゃないんですってば、彼氏なんてできてません!」
 はるかちゃんの渾身の叫びに、由紀の動きがぴたりと止まった。
 「本当?」
 「本当です〜」
 いじめっ子といじめられっ子の構図で、ふたりは相対していた。しかしその構図はすぐに崩れ、由紀の視線がゆっくりとわたしに向けられると、今度はわたしが怯える番だった。
 「……何も知りません」
 「嘘つけ!あっ、待てー!」
 そろそろ他の社員たちの目がこちらに向けられつつある。聞かれていい内容ならまだしも、そうではないのだから、由紀がこれ以上暴走する前に、わたしとはるかちゃんは、隙を見て素早く、人がいない会議室へ逃げ込んだ。
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