ring ring ring
 相手が仲のいい先輩の元婚約者、しかも破局直後とあっては、マイペースなはるかちゃんもさすがに気が引けたのだろう。でも、わたしはマザコンな忠信さんを受け入れる度量を持ち合わせていなかったのだから、それを承知の上で彼のことを好きと言えるはるかちゃんのことを怒る理由なんてひとつもない。
 はるかちゃんがホッとした顔で、「よかった〜」と小さく言うのを聞いて、由紀が眉を寄せた。
 「どうして美波が怒るの?」
 その質問に答えるべきか迷ったわたしがはるかちゃんを見ると、目があった彼女が唇をきゅっと結んで頷いた。わたしはそれを、ゴーサインとみなした。さっきはるかちゃんは自分で言うと言ったけれど、やはりいざとなると躊躇してしまうらしい。ここはわたしがフォローしなくては。
 「びっくりすると思うけど、はるかちゃんの好きな人って、忠信さんなの」
 驚きのあまり声をあげるか、それとも逆に沈黙するか。
 由紀の場合は後者だった。髪を掻きあげようとしていた手がぴたりと止まり、口は半開きで、硬直している。
 「ゆ……由紀さん?」
 はるかちゃんの呼びかけにも応じず、まるで石にでもなってしまったかのようだ。
 「あの……黙っててすいませんでした。でも相手が相手なので、堂々と好きです宣言するわけにもいかなくて……。でもでも、岡田さん、わたしのこと全然相手にしてくれないので、まだ片思いなんですけど」
 動かない由紀に向かって、はるかちゃんが必死に弁明する。全然相手にしてくれない、というのは初耳だった。
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