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薬指の扉
 わたしと由紀とはるかちゃんが所属する部署と、忠信さんと高林くんが所属する部署は、扉1枚で隔たれている。扉といってもワンフロアを分けるための簡易的な仕切りに近い形状で、気軽に出入りできるものだ。しかも忠信さんたちが会議室に行くためには、必ずわたしたちがいる部屋を通過しなければならないので、会議が多い日には開け放たれていることも多い。
 はるかちゃんがわたしたちに忠信さんへの恋心を告白してからというもの、由紀は忠信さんがこちらの部屋に出入りするたび、その動向に目を光らせるようになった。忠信さんの視線をチェックしていると言うけれど、わたしが見る限り、忠信さんに何か変化があったようには見えない。でも由紀の目には、明らかに忠信さんははるかちゃんを意識しているようにうつるらしい。
 そして、一方のはるかちゃんはといえば、ここ数日明らかに元気がない。心ここにあらず状態で頬杖をついてため息を漏らすこともしばしばで、今もわたしの斜め前の席で、ぼんやりと自分のネイルを眺めている。
 パソコンの時計は11時半。わたしは目が座り気味のはるかちゃんに声をかけた。
 「はるかちゃん、今日のお昼、由紀と3人で一緒にどう」
 わたしの声に、はるかちゃんはハッと息をのんで、慌てて手をパソコンのキーボードに戻しながら、
 「あ、はい、ぜひ!」
 と笑顔を見せた。無理して笑っているように見えた。
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