ring ring ring
 忠信さんだろうか。仕事が予定より早く終わったのかもしれない。
 そう思ったけれど、扉の向こうから顔を出したのは、高林くんだった。
 「あれ、海野さん。まだ残ってたんですか」
 「高林くんこそ、出張から戻ってたんだね。音沙汰ないから死んだかと思ってた」
 最近、何度かはるかちゃんのことについてLINEで連絡を入れたのに、ことごとくスルーされていた。出張中は疲れているのかなと思っていたけれど、帰って来てからも返信がなく、わたしもあまりしつこくするのはイヤだったからそのままにしていたのだ。
 わたしが吐いた毒を受けた高林くんは、苦笑いで隣のイスに座った。周囲を気にして、わたしたちは自然と顔を寄せ合い、小声で会話を交わした。
 「冗談キツイっすねー。てか返事しなくてすいません。もらったときは疲れててまた後でって思ったんだけど、そのままずるずると……」
 「そんなとこだろうと思ってた」
 「けっこう文字打つのめんどいんですよね。電話でしゃべったほうが早いっつーか」
 「そりゃ早いけど、メールやLINEのほうが、お互いの都合のいいときにやり取りできるっていう利点もあるじゃない」
 「ものは言いようですね」
 「わたしずっとはるかちゃんのこと気になってたんだよ。唯一のつながりの高林くんから連絡はないし、かといって本人に聞くのもアレだしって」
 「いやそれは、おれもあれからあんま相談されなくなってたからよく知らなくて。で、どうなんすか。本人に聞きました?」
 「うん、それがさあ……」
 と、さらに声をひそめたとき、頭上に咳払いが降ってきた。
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