ring ring ring
 「何の話をしてるんだ」
 その聞き馴染んだ声の主は、まさしく今わたしたちの間で話題にのぼっていた張本人で、わたしが驚いて顔をあげると、腰に手を当て仁王立ちでこちらを見下ろしていた。
 「あ……仕事、終わったの?早かったね」
 お互いにしか聞こえない程度の小声だったから内容は聞かれていないと思うけれど、気まずさに慌てて話をそらした。
 「わたしも資料整理してたんだけど、なんかすぐ終わっちゃって。そしたら高林くんがヒマそうな顔して来たから、おしゃべりしてたの」
 「ちょ、ヒマそうって、海野さん」
 流してくれればいいものを、高林くんが臨戦態勢に入った。
 「ほんとのことでしょ。呼んでもいないのに隣に座っちゃってさ」
 「ひどい言い草っすねー、マジで」
 「文句があるなら仕事に戻りなさいよ」
 わたしが応戦したとき、ふたたび咳払いがわたしたちを制した。
 「仲がよろしいことで。高林、おまえ仕事終わってるだろ。今からおれたち外に出るから、おまえも一緒に来い」
 「え、いや、明日部長に提出する見積書が……」
 「そんなの明日やればいいだろ。来い」
 忠信さんは、有無を言わせず高林くんを道連れにした。
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