ring ring ring
 はるかちゃんは何度も誘っているのに、どうして断るのか。彼女は今、とても落ち込んでいて自分に自信をなくしている。そんなはるかちゃんを見るのはつらい。
 ちょっと大げさだけれど、わたしはそう言って忠信さんの返事を待った。
 忠信さんはビールと順次運ばれてくる料理を交互に口に運びながら、考えこんでいた。
 「あの、おれ、やっぱ席外したほうがいいんじゃ」
 「どうして断るのかって言われても、そんなの彼女がきみと親しいからに決まってるじゃないか」
 考え込んでいたわりに、返ってきた答えはありきたりなものだった。
 「おれ、帰りましょうか」
 「本村さんを気落ちさせてしまったのなら申し訳ないけど、あの子だっておれが美波の元婚約者だっていうのに近づいてくるなんて変わってるよ。ふつうは避けるもんだろ」
 「はるかちゃんはちょっと変わってる子だっていうのはわかってたことじゃない」
 我ながら、このフォローどうかなと思ったけれど、この際だから気にしない。わたしは続けた。
 「すごくいい子だよ。一途なところあるし、うまくやれると思う」
 また口を閉ざしてしまった忠信さんの隣で、高林くんがおろおろしている。
 「あの、おれ……」
 「帰らなくていい。頼むから、おれたちをふたりきりになんて気まずいことにしないでくれ」
 忠信さんがため息混じりに高林くんを引き留めた。そして視線をわたしに向けると、その目が泣き出しそうな子供のように揺らいだ。
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