ring ring ring
 「あの、べつに今の、告白とかじゃないんだからね?たとえばって話なんだからね?」
 「はいはい。まあでも、高林はおれから見てもいいオトコだと思うし、まじめに考えてみれば」
 「まじめにって……忠信さん、話題をすりかえないでよ!」
 「すりかえるも何も、おまえ、高林のこの状態を見て、話戻せるか?」
 「うあああーーーー」
 完全に収拾不能になってしまった。高林くんは顔を手で隠したまま、ずっと唸っている。忠信さんはそんな彼の様子を、楽しげに見ていた。
 なんだか不思議だ。ちょっと前までわたしは忠信さんと結婚する予定だったのに、今、その忠信さんに、別の男性とのことを真剣に考えてみろとすすめられている。なのにわたしは、それを悲しいと思うことなく、また忠信さんもなんとも気軽に言うのだから。わたしたちの間に、本当に「愛」があったのかさえ、疑わしくなるほどに。
 「ま、高林くんは放っておくとして……」
 誘っておいて放っておくという、高林くんにしてみればイジメのような状況で、わたしは無理やり話を戻した。そうでもしないと、このままはぐらかされて帰るハメになりかねない。
 「忠信さんのかっこいいところは、会社のみんなが知ってる。もちろんはるかちゃんも。でもはるかちゃんは、それだけじゃなくで、あなたのマイナスな面も知ったうえで、それでも『岡田さんがいい』って言うのよ。何もかもさらけ出して、それを受け入れてもらえるなんてすごいことじゃない。きっと誰が聞いたってそう言うよ。そんな幸せな状況を自分から逃そうとするなんて、バカにもほどがあると思う」
 閉じかけた扉を、開いてほしい。はるかちゃんという、最大の理解者のために。
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