ring ring ring
 「岡田さんって、けっこうお堅い人なんですね。あ、高林くん、おはよう!」
 はるかちゃんがわたしの背後に向け、手を振った。振り向くと、はるかちゃんの同期の高林くんが横を通り抜けようとしているところだった。
 「おはようございます。みなさんお揃いで、何事ですか」
 「ふふふ、知りたい?実は美波がねえ……」
 由紀がわたしの手をぐいと引っ張り、掲げて見せた。
 「へえ、きれいな指輪ですね。すげーな。買ったんすか」
 「えっ?」
 「ちょっ…」
 「はあ?」
 最後の「はあ?」は、わたしだ。
 高林くんは、女性陣の頭上にいくつも疑問符が浮いていることに気付いただろうか。
 「女の人って大変ですよね。洋服とかバッグとか靴とかアクセサリーとか。さらにはエステやらネイルやらって、金がいくらあっても足りないじゃないすか。おれ、生まれ変わっても絶対に男がいいっすわー」
 軽やかに言って、所属部署がある扉の向こうへ消えた。
 「あいつ……まじか……」
 はるかちゃんの呟きを最後に、わたしを中心とした輪に短い沈黙が訪れた。
< 14 / 161 >

この作品をシェア

pagetop