ring ring ring
 人ごみをかき分け、わたしたちの元へ来た古田さんと由紀は、とても満足そうな顔をしていた。温泉で倒れたことをきっかけにお互いの必要性を再認識したふたりの間に、新しい溝が生まれることはもうないだろう。しっかり繋がれた手が、それを物語っていた。
 「ボーリング楽しかったー!わたしストライク連発だったよ!」
 「すごいね、じゃあ古田さんに勝った?」
 「勝った、勝った!」
 すごーい、と喜ぶわたしたちの横で、古田さんは「疲れた〜」と笑いながら高林くんに愚痴っていた。
 「はるかちゃんたちは?」
 「ホールでやってるトリックアート展に行ってたらしいけど……あ、来た来た」
 イベントホールのフロアから繋がるエスカレーターに、ふたり並んで乗っている姿が目に入った。忠信さんがわたしたちに気がついて、はるかちゃんに何かを言うと、はるかちゃんがこっちを見て満面の笑みで手を振った。わたしと由紀も振り返す。
 「あのふたり、なんだかんだでうまくいってそうね」
 「うん」
 「美波は、大丈夫?」
 「全然何とも。むしろうれしいくらい」
 つい最近まで婚約者だった人と仲のいい後輩とのカップリングを、由紀はことあるごとに心配してくれる。そのタイミングはいつも絶妙で、しかも重々しくならないようにしてくれるのだ。わたしは毎回、大丈夫と答えながら、由紀が親友で本当によかったと思う。
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