ring ring ring
 はるかちゃんが、エスカレーターを降りるやいなや、わたしたちのほうに全力で駆け寄って来た。その後ろを、忠信さんはのんびりと歩いている。
 「美波さん、由紀さん、見てください!」
 はるかちゃんが走った勢いに乗せてバーンと広げた右手の薬指に、わたしたちの視線は吸い込まれた。
 「どぅわぉあええええ〜!!」
 キラリと光る薬指。由紀がその右手を掴んで、言葉にならない叫び声をあげた。
 何ということでしょう。ちょっと前までおれには恋愛をする資格がどうのこうのと言っていた忠信さんが、こんなにも早く、はるかちゃんに指輪を贈るとは。
 ショックというわけではない。でも何というか、信じられないというか。いや、やっぱりショックなのかも。
 わたしが絶句していると、そこへ到着した忠信さんが輪に加わり、
 「勘違いしないでほしいんだけど、それ、その子が勝手に薬指にはめてるだけだから」
 と単調に言った。
 「え〜ひどい!わたしのために買ってくれたんだから、そういうことだったんじゃないんですか〜?」
 「しかも、トリックアート展のグッズ売り場で子ども向けに900円で売ってたやつだから」
 「値段じゃないんです。心の問題です!」
 「さ、次行こうか」
 さっさと歩き出す忠信さんにくっついて甘えるはるかちゃん。そんなふたりの後姿を、わたしたちは笑いながら追いかけた。
< 144 / 161 >

この作品をシェア

pagetop