ring ring ring
 「かわいいとか、全然うれしくないんですけど」
 つい数秒前の甘えたような声から一転、不機嫌な響きを帯びている。
 「んー、何でー?褒めてるんだよ」
 わたしももっと空気を読むべきだったのに、コインパーキングの空車マークを探すのに夢中で、またもや地雷を踏んだらしい。高林くんは、それまでひっきりなしにしゃべっていたのに、ぴたりと口をつぐんでしまった。
 さすがにマズイ。
 「あ、でも、アレだね、言葉間違えたね。やさしいって言いたかったの」
 時すでに遅しなのか、高林くんは返事をしない。
 「ごめんってば。せっかくのデートなんだから、楽しくやろ」
 何の権利があっての逆ギレなのか自分でも不明ながら、ちょっと強めに言うと、高林くんはようやく気を取り直し、
 「そっすね。あ!ありましたよ、空車!!」
 青文字の電光表示を見つけてくれた。
 ひとつ勉強になったこと。
 高林くんに、かわいいは絶対禁句。
 言われたくないなら、かわいいこと言わなきゃいいのに。
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