ring ring ring
 会計を済ませ外に出ると、甘いパンケーキと紅茶で温まった体を一気に冷やす風が吹いた。2月も下旬となり、少しは日が長くなったけれど、気温はまだまだ真冬。わたしと由紀は身を寄せ合うようにして大通りへ出た。
 忠信さんは5分も待たないうちに姿を見せた。電話でも言っていたとおり、企画部の人たちも一緒だった。
 「お疲れさま」
 「せっかくのパンケーキだったのに、急がせちゃって悪かったね。由紀ちゃんも、申し訳ない」
 「いいえ、わたしは全然」
 大好きなお酒にありつけるとあって、由紀はむしろ上機嫌だった。
 「今夜はおれの奢りだから、好きなもの飲み食いしてよ」
 「やった!岡田さん、いつもゴチになります」
 忠信さんはお金に関して気前がよく、後輩たちともよく飲みに行っては「たかられちゃったよ」と楽しそうに話す。わたしは彼のそういうところが好きだった。奢ってくれるからというのではなく、チームリーダーとしてメンバーの輪を第一に考え、気配りを忘れないところが、素直に尊敬できる。休日出勤の帰りにみんなで飲みに行くなんて、チームを大切にしない上司がいる部署では考えられないことだ。
 彼は実際、先輩にはかわいがられ、後輩には慕われていた。見た目の良さも加わって、女性社員人気もそこそこのようだけれど、何よりも同性からの支持が高いことが、婚約者として誇らしかった。
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