ring ring ring
 入ったお店は、まだ6時前だというのに盛況で、総勢8名のテーブルを確保できたことが奇跡のようだった。わたしたちが席について数分後には、店の入り口付近に空席待ちの人が座っていた。
 4人並びの向かい合わせの座席で、わたしの正面に忠信さん、両隣には由紀と企画部の若手の高林くんが座った。
 「企画部って男ばっかじゃないですか。飲みに行くって話になったときに、やっぱ華が必要だよなーって」
 高林くんが、温かいおしぼりで手を拭きながら言った。おじさんみたいなセリフにちょっと吹き出しそうになったけれど、お世辞でもうれしい。
 「もっと華が欲しいなら、はるかちゃんも呼ぼうか」
 高林くんとはるかちゃんは同期で、普段も仲がいいから喜ぶかと思いきや、高林くんは、
 「本村ですか?いいっすよ、酔ってなくてもうるさいのに、酔ったら最悪なんで」
 なんて言いながら、手をひらひらさせた。そんな風に言うけれど、傍からみればお似合いのふたりだし、照れているのかもしれない。
 「本村呼ぶくらいなら、古田さん呼びましょうよ。おれ、ひさしぶりに話したいなあ」
 古田というのは由紀のご主人のことで、今度は由紀が手をひらひらさせる番だった。
 「やめてよ、せっかくの楽しい場なんだから、旦那の目なんか気にしないで飲ませて」
 古田さんと由紀とは職場恋愛の末の結婚だから、当然今も同じ職場でご主人も働いている。でもわたしたちとは別部署でフロアも違うから、滅多に顔を合わせることがない。久しく家に遊びに行っていないから、わたしもずいぶん会っていなかった。とはいえ、由紀からしょっちゅう話を聞かされているので、元気にしているのだということはわかる。
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