ring ring ring
 「古田くん呼ぶの?」
 向かいの席で隣の人と話していたから聞こえていないと思っていたら、ふいに忠信さんが言った。
 「呼ばないですよ、どうせ今頃、ひとりでお笑いのDVDでも見て、わたしがいない時間を満喫してるんだから、邪魔しないであげましょう」
 由紀が皮肉めいた口調で言うのを、忠信さんは笑った。
 「そんなにイヤがらなくてもいいじゃないか。だいたい休みの日に奥さんが旦那を放って飲みに出るのを許してくれるなんて、それだけでもたいしたもんだ、認めてやらなくちゃ。おれもしばらく会ってないから、顔見たいな。結婚の報告も直接してないし」
 忠信さんがわたしに、目配せをする。たしかに、婚約の報告くらいは機会を作ってしなくてはと思っていたから、ちょうどいいタイミングかもしれない。
 「そうね、由紀伝いに話しただけだもの。家にいるなら、呼んじゃおうか」
 わたしが同意すると、そのとき突然、
 「いいってば!」
 由紀がテーブルを両手で叩いた。
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