ring ring ring
 『ひと昔前の感覚』というのが、わたしにはよくわかる。由紀の指摘どおり、忠信さんにそういうところがあるからだ。男っていうのは、女っていうのは、とときどき口にするし、自分が気に入らないことを強引に進めようとすると怒るのも、男性として女性よりも優位に立ちたいという気持ちの表れなのだと思う。この間の手料理のときだって、機嫌が直るまで大変だった。
 でも古田さんと由紀の間に、そんな関係があるなんて全然気付かなかったし、いつものろけていたのは由紀なりの強がりだったのかと思うと、ひとりで抱え込ませてしまって、かわいそうなことをしてしまった。
 「美波は、本当にあの人でいいの?」
 「え?」
 「だって、あんな考え方の人だよ。結婚したら仕事辞めて専業主婦になって、行く場所、会う人、買う物すべてに岡田さんの事前の許可が必要、なんてことになるかもしれないよ。わたしが今からお茶しない?なんて誘っても家を出られないかもしれないよ」
 「そんな、まさか」
 「わたしだって和志と結婚するまではそんなの考えたこともなかった。でもやっぱり『主人』っていうくらいだもの、結婚すると無意識に支配欲が芽生えて、女を下に見るような言葉が出て来るんだわ」
 わたしは何も反論できなかった。むしろ由紀の言うことがもっともすぎて、実体験からくる言葉の数々が、背中に重くのしかかってくるようだった。
 「薬指の指輪だって、キレイだけど……」
 由紀がわたしの指で輝くダイヤモンドを見つめた。
 「その輪で、美波のすべてを束縛したつもりになってるのかも」
 由紀の言葉に、わたしの体中に鳥肌が立った。
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