ring ring ring
 わたしは忠信さんのどこが好きで結婚するのだろう。出世街道まっしぐらで、周囲の信頼も厚い忠信さんに付き合おうって言われて、彼氏募集中のわたしには断る理由なんてなくて、みんなに羨まれて。そんな視線が気持ちよかったから、ずるずる流されるまま結婚を決めてしまったのかもしれない。
 「ま、カクテルは甘いし、好き好きですよね」
 「カクテルだけじゃないのよ」
 「……海野さん?」
 「今考えてたんだけど、わたしと岡田さんって、ほんとにあらゆるものの好みとか価値観が違うんだよね。こんなんでさー……」
 わたしは、指輪をつけた左手を、照明が当たる角度に掲げた。
 「わたし、幸せになれるのかな」
 わたしの気持ちが曇ろうと、指輪の輝きは少しも損なわれることはなく、キラキラと、幸福の代名詞としての役割を存分に果たしていた。
 「ため息の理由はそれですか」
 「まあね〜……」
 「マリッジブルー?」
 「まだそんな時期でもないわよ。純粋に、これでよかったのか悩んでたの」
 「岡田さんが相手でも、そんなふうに思うものなんですね、あ、どうも」
 高林くんの前に、チチのグラスが置かれた。
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