ring ring ring
 「おいしい」
 「幸せそうだなあ」
 「だって見てよ、ただでさえ美しいお庭がイルミネーションでライトアップされて、こんなにも素敵なのよ。こんな景色を眺めながら大好きなお茶を飲めるなんて、高級リゾートのスパよりも贅沢だわ」
 わたしが顔を窓に向けると、幻想的に浮かび上がった庭園の手前、窓ガラスに映る忠信さんと目が合った。
 「大げさだよ」
 忠信さんは笑って、アップルティーのカップに指をかけた。
 「そんなことないわよ。今日はお料理も最高においしかったし、本当に幸せ。ありがとう」
 わたしは心からそう思って言ったけれど、彼は、微かに口元を歪めた。
 「ほんと美波はいいな、何でもおいしくて。俺には今日の料理がそこまでおいしいとは思えなかったけど。この紅茶だって、少しイヤな渋みがあるし」
 カップを置く忠信さんの言葉を、わたしは「そうかなあ」と軽く流した。
 忠信さんは味にうるさく、安い店でもおいしければ手放しで褒めるし、どんなに有名な高級店でも口に合わなければ二度と行かない。忠信さんの言うとおり、何でもおいしいと思ってしまうわたしにはわからないけれど、好みの違いは誰にでもあるものだ。同じものを同じように分かち合えないのは残念でも、そこは他人同士、仕方のないことと割り切っている。
< 4 / 161 >

この作品をシェア

pagetop