ring ring ring
 「なんでコート着てないのよー」
 蕎麦屋の入り口で、寒そうに肩を縮めて待っていた高林くんに言った。
 「だって近いからいらないと思ったんですよ。まさかこんなに寒いとは!」
 「だったらお店に入って待ってればよかったでしょ!ほら、早く行こう」
 店内は同じくランチタイムのサラリーマンが多く、わたしたちは隅の2人掛けの小さな席に案内された。すぐに温かいほうじ茶が出され、高林くんはあちちと言いながら、すすった。
 「で、どうしたんですか。昨日のバーみたいな偶然ならともかく、海野さんから誘ってくれるなんて珍しいですよね」
 高林くんは、まだ蕎麦も来ていないのに、さっそく本題に入ろうとした。すでに昼休みに入って15分経過しているし、限られた時間だから仕方ないけれど、わたしはもう少しくだらない話でもしたかったなと思いつつ、切り出した。
 「昨日の話で、さ。気になることがあって」
 「気になること?」
 「覚えてるかな。ほら、カクテル注文したとき、わたしが結婚のこと、これでよかったのかなって言ったら、高林くん、相手が岡田さんでもそんな風に思うんですねって言ったでしょ」
 高林くんは首をかしげ、昨夜の会話を思い出しているようだった。
 「言いましたね、深い意味はなかったけど」
 深い意味はなかった、の言葉に、わたしは拍子抜けした。
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