ring ring ring
 高林くんに話を聞いてもらったのは、正解だった。後輩に宥めてもらうなんて情けないけれど、忠信さんに八つ当たりしてしまう前に自分の気持ちを知ることができたのはラッキーだ。誰にだって欠点はある。忠信さんが悪いのではなく、ましてや忠信さんを慕う同僚たちにも何の非もない。わたしのメンタルバランスが悪いだけ。
 お礼を言おうと思って視線をあげると、高林くんがじっとわたしを見ていた。
 「え……な、何?」
 その目は獲物を見つけたときの猫のように、いたずらっぽい色を帯びていた。真正面から高林くんの顔を見るのはほとんど初めてで、ちょっとどきどきしてしまった。
 「おれが、そのプレッシャー取り除いてあげましょうか」
 「取り除くって、そんなことできるの?」
 「できますよ。手、出してください」
 「手?」
 わたしは箸を置き、両手を高林くんのほうへ差し出した。すると彼は、わたしの左手を取って、その薬指から、こともあろうに、指輪を抜き取ってしまった。
 「あっ!ちょっと何す……」
 「絶対ラクになりますから。また必要になるときまで、おれが預かっておきます」
 高林くんは、にやりと笑って、指輪をハンカチに包んでスーツのポケットに入れた。
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