ring ring ring
 やがて汗が引いたわたしたちは、別の岩盤浴でふたたびたっぷり汗を流してから、天然温泉の大浴場へ移動した。大浴場は、もうすぐ日付が変わろうとしている時間帯にも関わらず、岩盤浴場以上の賑わいで、脱衣所のロッカーが空くのを待つ人の姿も見られた。
 「こんな時間なのに、けっこう小さい子もいますね」
 はるかちゃんの耳打ちに周囲を見回すと、たしかに、普通ならとっくに寝ていなければならないはずの幼い子どもがちらほら見える。人の多さに驚いたのか、深夜まで連れまわされ疲れたのか、怯えたように泣いている子もいた。子どもがいても自らの欲求を我慢することができない自分勝手な親に振り回されて、かわいそうだ。
 大浴場には露天風呂もあり、わたしたちはシャワーで体を洗い流すとすぐにそちらへ向かった。露天風呂へ続く扉を引くと、途端に冷蔵庫のような冷風が一糸纏わぬわたしたちを襲う。
 「寒ーい!」
 せっかく岩盤浴で体の芯まで温まったのに、温泉で冷えるなんて矛盾している。でも温泉に浸かってしまえばこちらのもので、冷たい風はむしろ、長風呂ののぼせ防止にひと役買ってくれた。
 「なんかさあ、温泉の成分がじんわり浸透してるーって感じしない?」
 「しますね。ほんと、じんわりって言葉がぴったり」
 岩風呂の湯に浸かり、腕や足を撫でてみると、つるつるしていて気持ちいい。こんなとき、わたしはいつも、家のお風呂も温泉だったらいいのにと思う。いっそ、民家にも温泉がひかれているという別府に引っ越そうか、なんて妄想を始めれば、いくらでも時間を潰せるくらいだ。
 「スーパー温泉もいいけど、たまには温泉地に旅行でもしたいなー」
 わたしの心の底からの呟きに、ふたりはうんうんと首を縦に振り同意してくれた。
 「じゃあお互いのパートナーも誘って行こうよ……っと、はるかちゃんは独り身だったっけ〜」
 「もうっ、さっきからひどい!由紀さん!」
 「ごめんごめん、あははっやめてよ、子どもじゃないんだから!」
 はるかちゃんは、由紀に向かって手を弾いて水しぶきをかけた。
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