ring ring ring
 「誰もいないわ」
 「予約したときに確かめたんだ。この時間は寒いから店内から眺めるだけの人が多いけど、明るい時間帯にはわりと出る人も多いみたいだよ」
 「そうなの?それなら出てみたい!」
 わたしは言うが早いか、残りのミルクティーを一気に飲み干し、膝のナプキンを取って立ち上がった。
 イルミネーションは、少し距離を置いて眺めれば全体が見渡せてロマンチックだし、間近で見れば自分が光の世界に入り込んだような気持ちになれる。実はさっきからずっと、もっと近くでツリーを見たいと思っていたわたしには、願ってもいない提案だった。
 「気が早いな。もっとゆっくり紅茶を飲みたいよ」
 忠信さんは、ティーカップを持ったまま渋った。ついさっき、紅茶がおいしくないと言ったばかりなのに。
 「どうせ外に出たら冷えて新しい紅茶を飲みたくなるわ。それ、口に合わないなら後で別のお茶を注文すればいいじゃない。行きましょうよ」
 苦笑する忠信さんを急かし、ホールスタッフの案内で庭園へ出た。
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