ring ring ring
 ここのところ気分が落ち込む日が続いて、友人に相談したところ、マリッジブルーだと指摘された。そう思ってみると思い当たるフシもあったため、どう切り抜けるか悩んでいると、結婚に対するプレッシャーを軽くするには、一時的に指輪を外してみるのが効果的と教えられ、それならば、と思い外してしまった。
 「あなたに相談せずに、勝手なことをして、本当にごめんなさい」
 わたしは、高林くんの名前は出さずに、話せる事実だけをかいつまんで話して謝ったけれど、忠信さんの鋭い目つきは、少しも変わらなかった。気まずい沈黙に、息が詰まる。
 注文した料理を運んでくれる居酒屋スタッフも、わたしたちの微妙な空気を察してか、いつものような元気がなく、「お待たせしました〜……」と静かに料理を置いていく。いつの間にかテーブルには、手を付けていない皿がいくつも並んでいた。
 「……マリッジブルーって、まだ式とか入籍も決まってないのに、なるもんなの」
 ポツリと、まるで独り言のように呟かれた疑問。かつてわたしも、バーで、高林くんに同じようなことを言った。まだそんな時期じゃない、と。
 でも、指輪を外してからわたしの気持ちが軽くなったことは事実であり、つまりは高林くんの指摘は間違っていなかったのだと考えていいと思う。だけど、だからといって、それを知った忠信さんの様子を見てしまった今では、わたしの行動が正しかったとはとても言えない。わたしの胸に、言いようのない苦しさがこみ上げてきた。
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